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マイアが描いた現代生物学の概略、「これが生物学だ」 【生物学】【読書メモ】

Posted on: 7月 10, 2009

生物学が拓いた20世紀の科学哲学

高校向けの科学解説書みたいなものかと思ったけど、開けてビックリ。現代生物学の到達点と物理・化学に偏重した科学哲学を批判するパンチの効いた本だった。

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原題 This is biology
邦題 これが生物学だ―マイアから21世紀の生物学者へ―
著者 Ernst W. Mayr
訳者 八杉貞雄・松田学
出版 シュプリンガー・フェアラーク東京
刊行 1999/06/20, 初版

生物学って結局、どんな事をやる学問なの? 何がどこまで分かるの? という疑問に本気で悩んでいる人や高校生物をやって「生物って丸暗記する科目でしょ?」と勘違いをしている人にオススメ。

本書は、20世紀を代表する生物地理学の大家の言葉だから重みがある。著者がどんな人かはWikipediaの項目、『エルンスト・マイヤー』を参照してください・・・と思ったけどWikiの記述はあまり充実してない、自分の印象だと硬派なドイツ人なんだけどね。

前半は、科学哲学と生物学の関係

特に物理学や化学に偏重してきた従来の科学哲学に対する批判と「生物学のための科学哲学」が展開される。例えば、トーマス・クーン流のパラダイムシフトは、物理学や化学では成立しても、生物学の進歩のパターンとして全く当てはまらないと主張する、内容をまとめると以下のような感じ。

  • ダーウィンの自然淘汰説が実証されて受容された経緯は、特にメンデル遺伝の再発見といった事実の蓄積による、革命的というより漸進的なものだった

  • 形態学や分類学の基礎は自然淘汰説が提唱される前に既に概念として確立しており、自然淘汰説により全面的な変更が起きたわけではない

  • 発生に関する前生説・後生説の対立では遺伝学と分子生物学による新しい証拠により、どちらの考えも部分的に正しかったことが明らかになった

    ※形態そのものの雛形が卵にあるわけではない(後生説的)、しかし
    それらを形成するのに必要な情報はDNAに記録されている(前生説的)

全体的な論調は、学説と事実の集積が組み合わさって徐々により複雑で精緻な学説に発展していくというヘーゲルアウフヘーベンを強く連想させられる主張。こうした学問の進歩観は生物の進化に類似している、というか適応進化そのものであると言える。

自然科学を学ぶということは対象とする現象のパターンを解析するに留まらず、同時に自身の思考パターンをも確立する作業だと感じる事があります。意識的・無意識的に、人は自分が慣れ親しんだパターンを未知の物事に対しても当てはめようとします、これが良いか悪いかはともかく、物事を明確に理解する上でそれは不可欠な過程だと言えます。

 

後半は、現代生物学の総まとめ

後半では現代生物学の諸分野を概観して、それぞれの分野において基礎となる考え方と、研究の中心的なテーマについて解説する。ただし、最近発展が著しい遺伝学や発生学についてはあえて深く触れていない。進化生物学や社会生物学、生態学に人類学、また最後の章では人間の文化進化について触れるが、この辺の話題はもっと詳しい本がたくさん出ているのでちょっと退屈。

今でこそ聞かなくなったけど、一昔前は博物学なんて科学じゃないって話があったのが懐かしいなあ。そんな人がいたら、この本から適当に引用すれば徹底的に論破できそうだ。

実際問題として、複雑で大量の情報を取り扱いできなかった時代だからこそ、極度に単純化された物理・化学的なモデリングが有効だったんだよね。遺伝学の知見なんて、現代の博物学の様相を呈し始めてるし。遺伝子の作用と塩基配列自体についての大量の情報が洪水のように解析されて毎年何百も論文が書かれて、とてもじゃないけど個人でフォローしきれない。マイヤーが手を付けなかったのも何となく分かる。爆発的に増えて落とし所となるパターンに想像が付かないから、パターン認識とカテゴライズで概念を階層化して整理する、進化論的思考方法が使い辛い対象なのだと思う。それも、だんだん情報が蓄積されることで変わってくると思うんだけどね。

例えば、Wired Visionで紹介された記事のように、遺伝子やタンパク質を3次元構造レベルで分析する手法のように新しい情報がブレークスルーをもたらすかもしれない。
ヒトゲノムの3D構造は「丸めた麺のようなフラクタル」
HIVゲノム:「2次元配列」ではなく「3次元構造」を解析(画像)

 

次々と追加される新しいパーツを古いパーツと組み合わせていったときに、これまでとまったく違った絵が見えてくることがある。マイヤーが言おうとしているのはそういうことだ。

 

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