水槽と家具

ダーウィンを超えて~21世紀の進化学

Posted on: 9月 5, 2009

今年は、ダーウィン生誕200周年 兼 「種の起源」出版150周年

ということで、生物学者にとっては実にめでたい年だったりします。なもんで、あちこちでダーウィン記念の講演や出版が相次いでるわけです。去る 8/22 に東京大学の安田講堂で講演があったので聞いてきました。

↓ シンポジウムの宣伝用サイトで、要旨などが置かれてます

http://www.darwin-200th.net/index.html

当日の講演内容は以下のような感じ

  • 「植物になる進化」 井上 勲 (筑波大学)
  • 「ダーウィンを超えて植物進化を解く」 長谷部 光泰 (基礎生物学研究所)
  • 「共生と生物進化」 深津 武馬 (産業技術総合研究所)
  • 「脊索動物の起源と進化」 佐藤 矩行 (沖縄科学技術研究基盤整備機構)
  • 「ゲノムからみた脳・神経系の起源と進化」 五條堀 孝 (国立遺伝学研究所)
  • 「危機から生まれた哺乳類:脳進化」 岡田 典弘 (東京工業大学)
  • 「迅速な適応性:昆虫の学習と進化ゲーム」 嶋田 正和 (東京大学)
  • 「中高生にどのように進化を教えるか?」 中井 咲織 (立命館宇治中学高等学校)

んで、興味深かったトピックについて掘り下げたいと思います。

まずは井上さんの「植物になる進化」

 

この演者、実は自分も持ってた本を書いてる人で、

(画像はAmazon へリンク)

こういう本を書いてる方です。自分も持ってましたが後輩に貸したまま卒業したんで、手元にありません。まだ、全部目を通してなかったのに・・・・・・今度、新潟に行って回収しよ。

今回の講演も藻類の進化に関する話でした

植物が葉緑体という細胞小器官によって光合成を行うことは皆さん、ご存知かと思います。そして、この葉緑体はラン藻の仲間が起源で、進化の途上で他の生物の細胞内に取り込まれて共生を始めたのがそもそもの始まりだった事が明らかになっています。また、動物の体内で酸素呼吸を行うミトコンドリアも同様に共生起源だったりします。(*1)

422px-Haeckel_Diatomea_4 (Ernst Haeckel による様々な珪藻のスケッチ、Wikipedia より引用)

藻類にはワカメやコンブのような海草から、川床に張り付く珪藻、ボルボックスのような緑藻など、様々な種類が存在しています。陸上植物を含めたすべての植物・藻類が持つ葉緑体のDNAを調べると起源は一つなのに、藻類が含まれる原生生物のグループを見ると、色々な系統で独立に葉緑体を持った系統が発生したように見えるのです。つまり

  • 葉緑体からのDNAの塩基配列 → 単一起源を示唆
  • 個々の藻類の核DNAの塩基配列 → 複数起源を示唆

というように、矛盾する結果が得られるのです。この矛盾は、共生が異なる系統で何度も生じた結果と考えれば解決できる、というのが井上さんの話の骨子。
実際、クリプト植物(*2)というグループには、ヌクレオモルフと呼ばれる細胞小器官が存在し、現在進行形の細胞内共生の姿が見られるそうです。

 

次は、嶋田さん(*3)の「迅速な適応性:昆虫の学習と進化ゲーム」

 

あとから別の人に聞いた話ですが、「嶋田さんは日本の進化生物学の本丸にいる」人らしいです。どんな人かは全く知りませんでしたが内容がとても面白そうだったので、自分にとっては今回のシンポの目玉でした。

導入はフィッシャーとハミルトンが先鞭をつけ、メイナード=スミス(*4)が大成した進化のゲーム理論の話から。ゲーム理論はそもそも経済学で発明された解析手法で、競争関係にあるプレイヤー達の戦略やその戦略を取る者の割合によって、最適な戦略が決定される、というもの。メイナード=スミスは、この概念を生物の行動に応用し、どんな戦略を持つ相手が突然変異によって現れても決して負けることがない、進化的に安定な戦略(Evolutionary stable strategy = ESS)という概念を提唱しました。


Hyménoptère parasite — Parasitic Wasp / Gilles Gonthier (flickerより)
コマユバチの一種

理論からの予測を検討するための実際の研究例として、寄生バチの性比調節の話が紹介されました。コマユバチの一種(Heterospilus prosopidis)では、雌雄で体サイズが異なり、メスの方が大きくなります。そして、メスは体サイズが大きくなるほど産卵数が増やせるため、体が大きいほど適応度が増加します。また同じ大きさの宿主で育ったとしても、オスの方が体サイズが小さくなります。

これらの特徴に基づいた予測として、小さな宿主にはオスを産み、大きな宿主にはメスを産むことが最適な戦略となります。野外で寄生された宿主を集めてその乾燥重量を計測したところ予測どおり、重量が大きい宿主ほど、メスが多い傾向が得られました。このように条件依存で産む性を変えることができるのが性比調節で、哺乳類を含め様々な動物で行われていることが知られています。今回の研究では、単に性比調節が行われていることを示しただけでなく、親子関係を解析することによって性比調節の能力が、環境の影響を取り除いて、どのくらい遺伝するかという事まで分析しています(遺伝率が約0.3)。

この後は、ショウジョウバエの学習実験とそのシミュレーションでの再現によるボールドウィン効果の話などが出ましたが、講演時間の関係で足早に説明が終わってしまったので、消化不良気味なところがチラホラ。目新しいトピックはありませんでしたが、前提となる部分をきっちり抑えながら検証していく点には圧倒されます。講演のファイルが研究室のサイトにアップされていたので、これを読みながら復習したいと思います。

 

最後は、中井さんによる「中高生にどのように進化を教えるか?」

    演者は生物学の研究者ではなく、教師。学習指導要領の改定に伴って生物では(いまさらながら)進化についてきちんと取り扱うようになるそうです。講演は自然淘汰を小学生にも分かりやすく教える、という授業を想定したものでした。現場の意見として高校教師の多くは自然淘汰についてどころか、進化自体についても理解してない人が多いとの事。そらー、そうだろう。
    とはいえ、講演を聴いて気になる点が二つ。
    一つめは、自然淘汰の核心である「淘汰」に対する感情的反発をどうやって乗り越えるか、という点。生物学的(あるいは経済的)な競争の議論に対して、感情的反発は根強い。しかし現実に競争は存在するし。感情的反発から自然淘汰という概念を退けても、その現象が無くなるわけではない。とはいえ、これは感情の問題だけに、実例と反復による繰り返し訓練以外に克服する方法はないと思う。 あと矛盾するようだが、親による子の世話や他者への思いやり・協力といった利他的な行動が、利己的な個体の「競争」から生まれうるという点こそに、自然淘汰の面白さと偉大さがあると思う。この辺はもっと強調されるべき。

二つめは、集団中の多様性(=変異)こそが最も重要という結論(個性を大事にしようという価値判断のオマケ付)。価値判断うんぬんは抜きにして、モヤモヤするものが残った。そもそも自然淘汰は変異・淘汰・遺伝の3セットを必要条件として、一つでも揃わなければ、機能しない。どれかを強調するのは誤解を招く表現ではないだろうか。
あえて初学者に強調するならば、適応進化を引き起こす究極的なメカニズムは淘汰以外に存在しえないという点から淘汰がどのように重要か、またどうやってそれが生物の進化に働くかという点を強調すべきだと自分は思う。

学習指導要領について調べていて気付いたが、確率分布や推定といった統計学が高校数学で本格的に取り扱われることになるようだ。それとグラフなどを使った、空間認識能力の重要性を強調している点にも好感が持てる。 生物の多様性の理解には、こうした数学的アプローチが必須なので、これらを統一的に説明できるような授業構成になれば良いなーーーと妄想中。

 

関連する記事

広告

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中

ページ

2009年9月
« 8月   10月 »
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930  

人気ブログランキング

人気ブログランキング

日本ブログ村

観賞魚ブログ
%d人のブロガーが「いいね」をつけました。