水槽と家具

ディファレンスエンジンを読んでビクトリア朝とダーウィンについて語る 【読書メモ】

Posted on: 12月 13, 2009


(amazonより参照)

原題 The Difference Engine

邦題 ディファレンスエンジン
著者 William Gibson, Bruce Sterling
訳者 黒丸尚
出版 早川書房 (1991/06/30 初版)

ハードカバーをブックオフで入手したまま数年間放置してたけど、先月ようやく読破できた。この小説の影響を受けたと思われる作品はたくさん知っていて、映画ではリーグ・オブ・レジェンドワイルド・ワイルド・ウエスト、小説では古橋秀之によるデモンベイン外伝(機神胎動軍神強襲)を読んでいたので、世界観には予備知識があったわけですが。

050114_2529_difference
w:Difference engine at the w:Science Museum, London, by Joe D in January 2005.(Wikipedia:階差機関 の項より)

本作は、ビクトリア朝時代のイギリスを舞台にした歴史改変SF。
歯車式のコンピューター(階差機関 = difference engine)が実現して、IT革命が産業革命と並行して起こっていたら、という歴史のifが出発点だろう。しかし、サイバーパンクのウィリアム・ギブスンブルース・スターリングのタッグが単なる歴史小説を書くわけがない。 事細かに描写されるスモッグと悪臭まみれのロンドン、貴族も労働者もトリコになる歯車と蒸気機関で作られた機械の数々、といったスチームパンク的世界のこれでもかと言わんばかりに詰め込まれた描写が魅力、のはずだけど自分は機械に興味はなかったのだった! 完

と書こうかと思ったけど、スチーム以外の歴史改変でツボった。

階差機関の発明者チャールズ・バベッジを始め、地質学の父ライエルや自然淘汰の提唱者ダーウィンといったこの時代を代表するイギリスの科学者達が、のきなみ「卿」の称号を与えられ
政治の立役者となっているのだ。博愛精神と進歩主義にあふれる科学者(能力貴族と呼ばれる)によりアイルランドのジャガイモ飢饉が回避されるとか、科学へのリップサービスあふれ過ぎ。
とはいえ、光あれば陰もある。
産業革命に反対したラッダイト運動が徹底的に弾圧されたり(史実では、労働者の権利を守るための政治運動になる)、蒸気機関が本来の歴史以上に多用された結果、テムズ川とロンドンの環境は、こっちも史実以上に酷いものになってたり。この辺りのドロドロした部分はスチーム「パンク」たる由縁か。

しかし、歴史改変に焦点を当てながら読むと、どうしても比較対象として頭から離れないのが、
キム・ニューマンドラキュラ紀元だ。こちらもビクトリア朝+歴史改変だが、改変といっても、
ブラムストーカー吸血鬼ドラキュラに基づく歴史改変だからややこしい。
ドラキュラがアルバート公に代わってビクトリア女王の婿になっているという風に、架空・実在の人物が入り乱れて展開される物語の重厚さと吸血鬼と人間が入り混じる社会の混沌さといった歴史群像劇の妙としては、こっちに軍配が上がると思う。

自己批判の意味も込めるけど、スターリングとギブスンの人物描写は、とても理系的発想で
作られている。つまり、「物語」という必然性が先にあり、人物はある役割を与えられた存在に
過ぎない。「物語」から人間の個性が抜け出せ切れてないのだ。まあ、ディファレンスエンジンという、この物語自体のオチがあれなので、しょーがないと言えばしょーがないかもしれないが。

 

自分が歴史に焦点を当てたもう一つの理由はビクトリア朝という時代が生物学にとって、特別な時代だからだ。 というのも、1859年にダーウィンが種の起源を出版して、それまでの博物学から現代につながる生物学の土台が作られた時代だから。
歴史的に見ると、産業革命によって人類はそれまで人間が手作業で行っていた技術や労働を、機械に代替させることができるという事が社会的に認識されたのはこの時代が初めてではないだろうか。その一方で現代に立って人類を眺めると、ダーウィンに由来する生物学は、
人間の統合された意識が、有機物と電気信号で構成された物質的要素に還元できること、
つまり人間もまた精妙に作られた機械でしかない、ことを明らかにした。

こうした視点から改めて本作を見直すと、ギブスンとスターリングが舞台に選んだのが、ノイマンのいた第二次世界大戦中でも、チューリングのいた第一次世界大戦後でもなく、バベッジとダーウィンのいたビクトリア朝という時代だったのは、人間の人間たる条件を探るというサイバーパンクに端を発する問題意識が辿り着く必然のことだったのかもしれない。

 

とか何とか大風呂敷を広げてみたけど、たぶん作者達は歯車式コンピュータって発想に
ツボっただけだと思うに、100ペソ。

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