水槽と家具

10万年の世界経済史 その2【読書メモ】【生物学】

Posted on: 1月 22, 2010

前回の記事は主に経済学の側面からの話題だったんだけど、今回は生物学方面から攻める。

原題 A Farewell to Alms: A Brief Economic History Of the World
邦題 10万年の世界経済史
著者 Gregory Clark
訳者 久保恵美子

本書のもう一つの主題、人類は所得格差に伴う出生数の違いにより農耕生活へ適応するようになった、つまり「生物学的に」進化したのだ、という推論だ。農耕生活で重要と考えられる特徴として、以下のようなものが挙げられる。単純な反復作業にたえる忍耐強さ、将来を予測し、資源管理するのに必要な識字・計算能力、他人とのコミュニケーション能力である。
農耕が狩猟採集に比べて「単純」である理由は、年齢と所得の関係で示される。南米ベネズエラのアチェ族では年代別の所得(肉のカロリー量で換算)が平均寿命に近い40歳のときに最大の所得を得ていた。これに対し、英国の農業従事者では20代後半で既にピークが訪れる。狩猟採集は熟練により多くの経験を必要とするのだ。

狩猟採集と農耕で異なる淘汰圧が働くという考え方「そのもの」は、納得できる。例えば、病原体への対抗進化は都市化が進み人の多い農耕生活でより働きやすくなるだろう。病気の研究では、人間においても自然選択が影響することが明らかな事例が知られている。貧血を引き起こす鎌状赤血球はマラリアに感染し難くなるメリットがある。また、CCR5というタンパク質に変異が起きるとHIVの感染耐性をもたらす(*1)。

ひるがえって「農耕生活で必要な」能力は果たして、農耕生活を行うようになった「結果」だと言い切れるのだろうか。自然選択による進化が起きるためには、3つの条件が存在する。

  • 変異
  • 遺伝
  • 淘汰

どれだけ淘汰が強く働いたとしても、遺伝しない形質(例えば技術や知識)だったり、変異(目や腕の数)がなければ「生物学的な」(=ダーウィン流の)適応進化は起きない。今回の本で証明されたのは、この3つの内、所得と出生に関わる淘汰の部分に過ぎず、この主題を語るには若干勇み足のように感じる。

ただし、それは著者自身も承知の上で、あくまで実証性よりアイディアを重視している旨を最初に断っている。ならば、こうした議論はもっとセンシティブな問題に影響しかねないことを丁寧に説明しておくべきだったと自分は思う。人種や先進国と発展途上国の関係、果ては先進国内の生活保護といった様々なレベルの問題に対して誤解を与えかねない。
マルサスの罠は現代の先進国に当てはまらない(*2)、しかし本書ではマルサス的社会と同列に比較される場面もあるので読者に混乱を招くおそれがある。というか、読んでて混乱したー

人間の進化を扱うのは、わたしたち自身についての問題であるだけに厄介な爆弾を抱えているなあという印象、進化心理学は面白いのだけどね。批評はしたけど、個人的意見として農耕生活が人類進化に与えた影響は確実に存在すると考えている、実証する価値のある研究とも思う。

これらの問題に対する生物学的なアプローチとして、動物の家畜化された過程を検討することが人類の進化を学ぶのに役立つかもしれない。最近、ソ連のキツネの研究(*3, *4)がニュースになった。ロシア(当時はソ連)のベリヤエフが行ったこの研究では、人に馴れ易いキツネを選別して継代飼育することで、たった30年ほどで「犬のような」キツネを作出することに成功した。

同じような現象が人間でも起きた可能性は否定できない。こうした家畜で起きている遺伝的変異や対立遺伝子の違いをDNA解析で網羅的にあぶりだすことで、人間の計算能力や言語能力といったものの遺伝的基盤が明らかになるかもしれない。そこまで分かって初めて、実際に人類の進化で自然選択が果たした役割を定量的に評価することができるだろう。

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