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種の起源を書いた理由はアンチ奴隷制、「ダーウィンが信じた道―進化論に隠されたメッセージ」 【読書メモ】【生物学】

Posted on: 4月 18, 2010

原題:Darwin’s Sacred Cause
邦題:ダーウィンが信じた道―進化論に隠されたメッセージ
著者:Adrian Desmond, James Moore
訳者:矢野 真千子, 野下 祥子
出版:日本放送出版教会

ダーウィンはそもそも何のために種の起源を書いたのか?

その根源には奴隷制度を廃止したいという情熱があり、特に黒人奴隷を「科学的に」擁護する人種の多起源論を粉砕したかったからだ、というのが本書の解答だ。ダーウィンを中心として、奴隷制をめぐる廃止派・擁護派の人物と科学者が入り乱れ、当時の時代背景が語られる。

イギリスでは奴隷貿易が1807年で禁止され、1833年には奴隷制度が廃止されている。一方で、アメリカの南北戦争は1861~1865年と、南北アメリカ大陸での奴隷制の廃止は遅れていた。そうした奴隷制を「科学的」に正当化したのが、人種の多起源論である。種の起源が出版された当時、聖書の記述通りの「創造」が行われたとは既に考えられていなかった。

当時は、大陸間でおおきく異なる動植物、それに人種は別個に創造され、それぞれ異なる歴史をたどって現在に至ったと考えられるようになっていた。ヨーロッパには白人、アフリカでは黒人、アメリカでは「インディアン」が別個に発展し、有色人種や黒人は「白人ほど」発展が進んでない、劣った人種であり、「白人」とは別種だとみなされていた。人が家畜を使役することに、倫理的問題がないのと同様に、異種である黒人を白人が使役しても何の問題もない、という論法である。ダーウィンが提示したかったのは、人類は同じ「共通祖先」を持ち、人種の違いは鳩や犬における品種の違でしかなく、暴力や抑圧が許される「別種」ではない、という圧倒的な証拠だという。

 

「種の起源」が生物学に与えた本質的影響

そうした人種の多起源論 vs 単一起源論という構図が「種の起源」の背景にあったのは確かだと思うけど、それ以上に生物学において「分類」と「系統樹」のどっちが本質かという問題が表面化したんじゃないかと読みながら思った。

生物の分類法を提示したリンネも、実証的な比較解剖学のキュビエも、生物は不変で離散的なカテゴリーに「分類」できるものだと考えていた。しかし、多くの生物の標本を収集してデータが溜まれば溜まるほど、生物を「不変な」ものと認識することには無理が生じるはずだ。ダーウィンが提示した自然淘汰による進化とは、共通祖先から環境への適応や偶然によって派生と分化がすすむことで生じる「系統樹」こそが生物の本質だという考えに他ならない。

分類と系統樹、このどっちを生物の本質とみなすか、ということは生物を理解していく上で最も大きなパラダイムシフトとなったんじゃあなかろうか。

 

人間はどこまで他種の自由を許容すべき?

暴力や抑圧が「同種」であるから許されないというダーウィンのロジックを拡張していくと、生物はすべて「同じ祖先」を共有しているのだから、あらゆる生物は暴力や抑圧から自由であるべきだ、というアニマルライト種差別主義の廃絶に行き着く。

個人として、そうした考えには強い共感を覚える。

しかし、人間が多数派を占める現代の社会では、動物実験の全面禁止は医療の進歩に影響することで「人間の抑圧」を招く。このへんのバランスが難しいのが、種差別主義の廃絶を阻む大きな要因だろう。また、日本でアニマルライトの考えが一般に普及しない理由が本書を読んで何となく分かった気がする。奴隷制の廃止という出発点が無いため、実感としてその必要性を説明するのが難しい、というのが大きいのだろう。

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