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複雑な知性は必然の産物か?「進化の運命」【生物学】【読書メモ】

Posted on: 9月 4, 2010

原題:Life’s Solution | Inevitable Human in a Lonley Universe
邦題:進化の運命 孤独な宇宙の必然としての人間
著者:Simon Conway Morris
訳者:遠藤一佳、更科功
出版:講談社

 

制約が必然的に収斂を導く

Stephen Jay Gould はカンブリア紀のバージェス動物に関する著書、ワンダフルライフの中で生物の進化の歴史は偶然性により大きく左右され、もう一度やり直してみれば、そこで展開される歴史は今とまったく異なるものになり、人間のような生物が再び進化する可能性などほとんどありえない、と主張した。Morris はワンダフルライフ内にも登場したバージェス頁岩を研究した古生物学者だが、本書ではGould の主張に真っ向から反論する。人間的な知性の進化は、ほとんど必然的に生じるのだと。

Morris は、適応的な機能を獲得する際に異なる系統の生物でマクロレベルだけでなく、ミクロレベルでも収斂が生じることを指摘する。90年代以降、分子生物学の発展で収斂現象の中には単なる外見上の類似に留まらず、分子レベルでの収斂現象が存在することが分かってきた。本書で紹介された例を挙げると、脊椎動物や頭足類(イカやタコ)に見られるレンズ眼は独立に獲得された器官だが、レンズを形成する透明なタンパク質にクリスタリンというタンパク質がどちらの系統でも使われる。この分子自体は細菌にも見られる普遍的なものだ。
生物の構造は分子レベルの基本的なブロックを積み上げたり、組み合わせることで形成されるが、複雑な機能を実現するのに必要な構造と、使える分子の選択肢には制限があるため、収斂がもたらされるのだと考えられる。

石を使ってダチョウの卵殻を割るエジプトハゲワシ

 
Egyptian Vulture / Maurice Koop
クリエイティブ・コモンズ 表示-改変禁止 2.1

生物界に収斂は普遍的に見られることを、Morris は実例を持って示していく。文献と註だけでもおおよそ200ページあると言えば、どれだけ執念を込めて実証例を集めたか分かっていただけるのではないだろうか?

その中には胎生や恒温性、記号の操作や自己の認知といった抽象化能力、道具の使用や農業、社会生活といった、人類に固有とみなされがちな機能さえ、様々な動物で独立に進化して収斂したことが示される。これらの事実をもって、歴史を繰り返したり、異なる惑星上の生物であっても我々とコミュニケーション可能な知性を持った生物が必然的に出現すると予想する。

 

知性による人間の定義の妥当性

知性の進化に関するMorris の主張は、自分としては至極なっとくできた。
要するに、ヒトそっくりの社会性と知性は収斂で進化するから、それを持ってるものは進化生物学的には「人間」扱いしましょうという話だ、イルカやクジラを名誉人類扱いしたがるのも当然のことだ。しかし、進化を専門に学んだわけでない一般の人に納得してもらうのは難しそうだと思った。

一つめの壁は「種」の壁。
ヒト(=Homo sapiens)に属さないと人間じゃねえ、っていう種差別主義ってわりと根深そう。生物学的には種分類自体に本質的なものなんてないから、無意味なんだけど、それで納得しない人もまだ多そう。

二つめの壁は「共感」の壁。
露骨な言い方をすると、文化や感情を共有できないやつは人間じゃねえってこと。

人間の定義として、知性があるかどうかを Morris は重視してるが、一般の人にとって、それは必ずしも重要な要素ではないと思う。感覚や感情や価値といったソフト面での整合性をヒトの多くは重視しているように見える。戦時中の特攻隊員と現代のウォール街のビジネスマンが、お互いを同じグループに属するとみなすだろうか? もっと単純な話をすると、コペポーダの交尾シーンを見て性的欲求を覚えたり、萌えるだろうか? 萌えないよね、つまりそういう事。

ヒトが持つ感覚や感性はヒトに特異なものだろうか?

Morris は音波の反響で世界を認識するコウモリの世界を人間が理解できるのか? という疑問への答えとして、受容する感覚器官の収斂が色覚やモノの見え方といった感覚様式の収斂につながると主張している。
本書では、神経系や脳の構造の類似性について軽く触れただけだが、昆虫の記憶や学習の分子メカニズムについて研究した例が、「昆虫-驚異の微小脳」という本で詳しく紹介されている。これらの知見の蓄積によって、神経系での情報処理に関する分子的メカニズムにも収斂が見られるのか否か、いずれ明らかになるだろう。

 

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