水槽と家具

亜硝酸菌 ≠ ニトロソモナス【アクアリウム・生物学】

Posted on: 8月 19, 2011

オープンアクセスの学術誌、PLoS ONE に掲載されていた論文を紹介する。

Aquarium Nitrification Revisited: Thaumarchaeota Are the Dominant Ammonia Oxidizers in Freshwater Aquarium Biofilters
Laura A. Sauder, Katja Engel, Jennifer C. Stearns¤, Andre P. Masella, Richard Pawliszyn, Josh D. Neufeld*

(アクアリウムにおける硝化の再考:淡水アクアリウムにおける主要なアンモニア分解者としての Thaumarchaeota)

イントロから、アクアリストにとってわりと衝撃的な事実が紹介される。
それは、淡水アクアリウムでアンモニア⇢亜硝酸の酸化を行っているのは何か、はっきり分かってなかった、ということだ。アクアリウム業界では、亜硝酸菌=ニトロソモナス属というのが一般的認識だと思うけど、その知識はあくまで海水限定のものだということが紹介される。これには、ちょっとゾッとした。

アクアリウムみたいな実害のない趣味の世界だから良いけど、農業や医療だったらどうなるか。やっぱ一次文献に当たって根拠を調べるのは大事だわ・・・

Although Nitrosomonas-like bacteria from the Betaproteobacteria were associated with the saltwater aquaria in their study, they did not detect these bacteria in most of the freshwater aquarium biofilter extracts tested. They concluded that ‘‘the bacterial species responsible for nitrification in simple freshwater systems remain unknown’’ .

Hovanec and DeLong による過去の研究では、海水アクアリウムにおいてニトロソモナス属に似たバクテリアを検出したが、彼らが用いた淡水アクアリウムの濾過装置のほとんどで同様のバクテリアは検出されなかった。彼らは、淡水アクアリウムにおける硝化をになう細菌の種類は未だ不明であると結論している。

この論文では、アンモニア⇢亜硝酸の反応の促進者として、ニトロソモナス属ではなく古細菌の一群である Thaumarchaeota がより重要であると論証している。
タウムアーキオータとニトロソモナスのどちらが水槽のフィルター中に優占しているか明らかにするため、リアルタイムPCRを実施して、発現している遺伝子の定量化を行った。対象には、27の淡水アクアリウムと8の海水アクアリウムを選び、pHは7.6  ~ 9.2, 熱帯魚・金魚・南米およびアフリカのシクリッドを飼育する幅広い環境を網羅した。

リアルタイムPCRで、16S リボソームRNAとアンモニア代謝酵素(amoA)の相対存在度を定量化することで、タウムアーキオータとニトロソモナスのどちらが、水槽のフィルター中に優占しているか検証した。

その結果、淡水アクアリウムではタウムアーキオータが優占しており、海水アクアリウムではタウムアーキオータとニトロソモナスが共存していることが明らかになった。
ほとんどの淡水アクアリウムから、タウムアーキオータに由来する16S リボソームRNAとアンモニア代謝酵素が検出され、ニトロソモナス属のアンモニア代謝酵素がほとんど検出されない水槽もあった。また、85%以上の水槽でタウムアーキオータの優占状態は、2年間以上維持されていた。

以上の結果から、
淡水のアクアリウムで亜硝酸菌と呼ばれていたものの正体は、ニトロソモナス属ではなく古細菌のタウムアーキオータであることが分かった。

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コメント / トラックバック5件 to "亜硝酸菌 ≠ ニトロソモナス【アクアリウム・生物学】"

こんにちは。初めてコメントさせて頂きます。
時折お邪魔しては文章を拝読させて頂いているいちアクアリストです。
しかしこれはアクアリストにとっても少々衝撃的な論文ですが、
ニトロソモナス属を亜硝酸菌として各種バクテリア添加剤を
発売してきたメーカーにとってはさらに衝撃的な論文ですね。
私も以前水槽内の硝酸菌の主役ががニトロバクター属ではなく、
ニトロスピラ属だったという話を初めて聞いた時以来の驚きです。
こうなると私のような素人は硝酸菌=ニトロスピラ属すらも、
何だか疑わしい気持ちになってしまいます(苦笑)。
確か水槽で硝化をするニトロソモナス属は、偏性ではない好気性で、
約1日に1回の分裂・増殖をすると言われていたと記憶しておりますが、
この古細菌タウム~については、どうなのでしょうか。
もしご存知あれば(ご存じなくとも専門家さまのお考えを)是非
お伺いしたく思います。

フィールド調査の関係で、数日間ネット環境のない場所に行ってましたので、返事が遅れました。すいません。

自分も単なるアクアリストで、細菌の専門家ではないので、この古細菌のグループの細かい性質を把握しているわけではありません。
ただ、ニトロソモナス属の細菌が、アンモニア⇢亜硝酸の硝化を行う酵素を持つことも知られてますので、水槽用のバクテリア添加剤がニトロソモナス属を単離した成分としても、アンモニア分解に効果はあると思います。今回の論文でも海水水槽の中には、ニトロソモナス属の硝化酵素が検出されたものもあるようです。

分子生物学的な手法を用いて細菌の存在や機能を検証するハードルは、技術的に下がる一方なので、今後研究が進展するに従って既存の知識が破棄されたり、補強されたりすることは、ままあることだと思ってます。

neleusさま:
丁寧なご返事有難う御座います。
そうですか、こういった英語の論文をご覧になられるのに
「単なるいちアクアリスト」とは…!!
じゃあ私なんかは「0.1アクアリスト」ぐらいですね(笑)。
>今後研究が進展するに従って既存の知識が~
仰る通りですねぇ。この世界じゃあ まだ学者同士で論争してるような学説もあるようですし、飼育者同士でもやれカルキ抜きは要るとか要らないとか、活性炭がアンモニアを吸着するかとかしないとかで、色々な情報が飛び交っていますもんね。定説なんて覆される為にあるような世界なのかも知れません。
ともかく、これからも是非興味深いお話がありましたらご紹介下さい。

P.S.私もにゃんこ飼ってますよ。(*^_^*)

一応、魚類の生態学を研究してるので、学術論文には触れる機会が多いです。最近はオープンアクセスといって、無料で読める雑誌も増えてるので(今回の論文もそう)、アンテナさえ張っていれば、拾える情報もあるとは思います。でも、英語だと敷居が高いんですよね・・・

>定説が覆される
まあ、そうした過程を経ながら正しい知識が確立していくのだと思います。
自分が子供の頃の飼育本には、金魚の飼育水は全換水して砂利もきれいに洗おうって書いた本も多くありました。そのころに比べると、アクアリウムを維持するのに必要な知識の蓄積と普及は、かなり進んだと思います、機材もやすくなりましたし。

>にゃんこ
連れ合いの猫です。一緒に暮らし始めて2ヶ月ほどですが水槽の魚には、手を出さないものですね。

[…] 水槽と家具|亜硝酸菌 ≠ ニトロソモナス【アクアリウム・生物学】 […]

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