水槽と家具

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British Wildlife Centre / Martin Pettitt
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1950年代にロシアの遺伝学者、ベリヤエフはオオカミがイヌに家畜化される際に起こったと考えられる遺伝的変化を再現するための進化実験を計画した。人が近づいてもおびえず、攻撃的な行動を示さない個体を選抜することが、オオカミとヒトの共同生活を始める最初のステップだったろう。
そこで、人に馴れやすいキツネを選択交配することで、どういった変化がキツネに生じるか、数十年かけて何世代もの交配をかさねて経過を観察したのだ。

この結果はドーキンスの『進化の存在証明』でも取り上げられ詳しく解説されたが、簡潔なカラパイアの記事が参考になる(「従順なキツネ」を求め交配を続けた結果、キツネが犬化(ロシア))。この実験が非常に興味深いのは、人に対して馴れやすい、という行動をターゲットにした選抜が行動だけでなく、形態の変化も同時にもたらすという点である。カラパイアの記事から引用すると、

キツネたちの体格は小さくなり、よく遊ぶようになり、尻尾を振り、犬のように吠え、そして毛の色に変化が現れたとのこと。中には青い目をしたキツネも生まれたという。

このような形態の変化は、オオカミとイヌとの間に見られる形態的な違いとも一致しているだけでなく、多くの家畜化された哺乳類に共通する現象でもある(1)。


家畜化されたキツネを描いた図、 (1)より引用

上の図でも明らかなように、家畜化されたキツネには野生個体には見られない黒い毛が現れる、この黒い色はメラニンの蓄積によるものだ。メラニンの前駆体であるアミノ酸のチロシンは、ドーパミンや攻撃衝動をもたらすアドレナリンといった神経伝達物質の合成にも使われる。この事から、 行動をコントロールする化学物質の発現量や代謝経路の変化が、メラニンを副次的に増やし、黒い毛色を生じさせたと考えられている。

この チロシン-メラニン代謝経路の仮説は非常に説得力があるように聞こえるのだが、誰が最初に提唱したのかは判然としない。
少なくとも自分が調べた限り、ベリヤエフ達のグループがそうした仮説を主張した形跡はない。生化学的な研究として Trut が、ストレスホルモンのコルチゾルの濃度の違いを紹介しているが(2)、これはステロイドホルモンで、チロシンとは化学的に組成が異なる。

キツネについてこの代謝経路仮説を調べた研究として、アメリカの研究グループが、1970年にこの仮説を検証した論文を書いている(3)。この論文のイントロで既にラットやミンクの事例を挙げて、チロシン-メラニンの代謝経路仮説について触れているので、最初に提唱されたのはもっと時代を遡ることになるのだろう。肝心の内容だが、毛皮の色が異なるいくつかの品種について、人間からの逃避距離と体内の化学物質の濃度に関係があるか調べているが、クリアな結果は得られてない。

チロシン-メラニン代謝経路の仮説を実証的に示した研究はあるのだろうか、また最初の提唱者は誰なのだろう、時間のあるときにもう少し詳しく調べておきたい。

まとめ

警戒性や攻撃衝動のような行動に対する淘汰が、体色の変化をも同時にもたらしたというベリヤエフの実験結果は、環境-行動-形態の間にフィードバックループが存在することを示唆している。

動物の多様な体色を説明するとき、隠蔽色のように直接の自然淘汰のターゲットになるものを除けば、性淘汰や種間の生殖隔離がメカニズムとして議論されることが多いと思う。しかし、行動など形態以外に対する淘汰圧が変化することで、体色の変異も副次的に引き起こされるならば、近縁種間で極めて多様な体色や模様が見られるのは、体色や模様に対する何らかの淘汰によって多様化したのではなく、単に化学経路の微細な多様さを反映しただけかもしれない。

引用文献

  1. Trut L.N. 1999. Early Canid domestication: The Farm Fox Experiment. American Scientist. 87: 160-169.
  2. Ruvinsky A., Sampson J. 2001. The genetics of the dog. CABI Publishing Series. p.23
  3. Keeler C et al. 1970. Melanin, Adrenalin and the Legacy of Fear. The Journal of Heredity. 70: 81-88.

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Red Tailed Wrasse / USFWS Pacific
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大学院の講義で、性転換をする魚類の話を聞いてきた。

魚類では、オス⇢メス、メス⇢オス、オス⇔メスというように生涯で性が変わるパターンが多く見られる。身近な魚では、クロダイが成長にともなってオスからメスに性転換する。こうした現象は、サンゴ礁に分布するスズメダイやベラに多く見られるので、それらを対象によく研究されてきた。

行動学の話題が多い研究材料だけど、今回の講義内容は完全に発生学、生殖腺が性転換のときに形態的にどう変わって精巣や卵巣へ分化するか、また性ホルモンがそこへどのように関わるかといった生理的メカニズムの解説が中心だった。

性転換を引き起こす直接の原因は、女性ホルモンのエストロゲンを合成するアロマターゼという酵素らしい。この酵素のオン・オフが雌雄の切り替えスイッチになる。
面白いのは、まわりの他個体とのサイズ差という視覚刺激が、脳下垂体を介してこのアロマターゼの分泌を制御しているという点だ。脳を介したシグナル伝達経路は完全に解明されてないらしいけど、組織レベルの生理学と生態学が結びついてくる内容でわくわくしながら話を聞いた。

Estradiol

エストロゲンの一種、エストラヂオールの化学構造式

というのも生態学では、個体間のサイズの違いとそれにより生じる雌雄での繁殖成功の違いが、性転換の進化における重要なキーだと考えてきたからだ。
性転換は個体の遺伝的なコピーを増やすのにどのように役立つか?という問いを考えたとき、有効な理論として考えられ、検証されてきたのが、サイズ有利性説 size advantage model である。

性転換魚類の研究で有名な桑村哲生さんの本、『性転換する魚たち -サンゴ礁の海から-』に多数の事例と共に書いているが、例えば一夫多妻のハレムを形成するベラの仲間では、体の大きなオスが多数のメスを独占する(= 小さなオスが繁殖に参加するのは難しい)。そこで体サイズが小さい間は、確実に繁殖へ参加できるメスが適応的になる。一方、ハレムを持てるほど大きなサイズに育つことができたら、オスとしてメスを独占した方が適応的になる。このように繁殖成功を最大化できる性が、サイズによって異なる状況がある場合、性転換が進化する。

哺乳類を始めとした多くの陸上動物で性転換が見られないのは、外性器のような生殖器まで変化させるコストが大きすぎるためと考えられている。

ところで、サイズ有利性説の肝は「サイズに応じて有利な性が変わってくる」という点にある。これは性転換する魚類の戦略をうまく説明できたが、他の動物にも当てはまりそうな状況があるんじゃなかろーか。例えば、好適な環境下ではメスを産んで、成長が制約される環境下ではオスを産むというような性の産み分けや性比調節にも応用できる場面があるのではないだろうか。何か当てはまりそうな事例がないかと思っていたところ、ゼミでタイムリーに論文が紹介された。

Niveoscincus ocellatus / Nuytsia@Tas
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Climate-driven population divergence in sex-determining systems
Ido Pen, Tobias Uller, Barbara Feldmeyer, Anna Harts, Geoffrey M. While & Erik Wapstra

この論文で扱われている卵胎生のトカゲは、気温が高い時期はメスになり、気温の低い時期はオスになるという温度性決定を行う。気温の高い繁殖シーズンの開始期にメスを産むことで、繁殖開始齢になるまでに成長する期間が長くとれるので、抱卵率が高くなるらしい。サイズ有利性説の予想と一致する?

と思っていたけど、いま論文の要旨を読み直していたら、メスのサイズと繁殖成功との関係がちょっと曖昧。うーん、詰めが甘かったな、紹介された論文は手元に落として確認してみないとダメだなあ。自宅なので、Nature の記事はダウンロードできないし・・・明日にでも内容を確認して追記しようと思います。きちんと当てはまるようなら面白いけど。

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Plos one に掲載された論文の紹介

Temperature Influences Selective Mortality during the Early Life Stages of a Coral Reef Fish
Tauna L. Rankin, Su Sponaugle

Stegastes partitus, Adult (Bicolor Damselfish) / Smithsonian Institution
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スズメダイの仲間(Stegastes partitus)を材料にした研究。
野外集団を採集してデータを収集しており、16か月分、1500個体のデータから稚魚の成長に水温があたえる影響を明らかにしている。調査地はフロリダ、北緯24度なので、八重山諸島とほぼ同じくらいの緯度で気候は亜熱帯に属する。水温は20℃ 〜 28℃ と年間で約8℃ ばらつく。

スズメダイは孵化して、しばらくは浮遊期と呼ばれるプランクトン状態で過ごす。ある程度サイズが大きくなると、着底して親魚と同様の生活を始める。

この浮遊期の長さと水温が、稚魚の生存へ複雑に影響することが議論される。植物プランクトン量や風速も検討したが、成長との関係がはっきり示せたのは水温だった。

採集個体の耳石を調べ、成長速度や浮遊期の長さ、それらに対応する生存率を計算する(耳石には年輪状に成長が記録されている、参考:福井県水産試験場)。それらを簡単にまとめると、以下のような関係にあるようだ。

  • 成長速度 × 浮遊期間 = 着底時のサイズ(≒ 生存率)

着底サイズが大きいほど生存率は高い(これは夏でも冬でも変わらない)。
複雑なところは、成長速度と浮遊期の関係が季節によって逆転する点だ。

冬季は成長速度ができるだけ大きく、浮遊期が短い個体の生存率が高くなる。
夏季は中程度の成長速度を示す個体の生存率が低くなる(成長速度と生存率の関係が、中央が凹んだ二山になる)。また冬季とは反対に、浮遊期ができるだけ長い個体の生存率が高くなる。

まとめると、以下のようになる。

  • 【冬季に好まれる形質】 成長速度(高)    & 浮遊期間(短)
  • 【夏季に好まれる形質】 成長速度(高 or 低)& 浮遊期間(長)

最適な成長速度が水温によって変化するので、温暖化のように長期的な水温環境の変化が生じれば、この種の成長戦略は変化するだろう、と締めくくられる。

読み終わって気になったところは、耳石の大きさを使って稚魚期の成長速度を推定してる点(体サイズとの関係がよく分からない)。それと、成長速度と浮遊期の長さとの関係は、もう一歩踏み込んだ解析ができたら良いと思った。
議論では、成長速度と捕食リスクなどのトレードオフに焦点が当たっていたが、成長速度と浮遊期の長さの間には遺伝相関もあると思う。

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5章では、性淘汰の実証研究が紹介され、6章では過去の性淘汰に関する研究の網羅的なリストが挙げられる


wet katydid / Nick Harris1
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  • キリギリスのメスによる、オスのギフトをめぐる競争

キリギリス Katydid の仲間は、交尾のときに雄が精包という形でメスに栄養を提供する。特に大きな精包を作る Anabrus simplexMetaballus litus では、性役割が逆転して、オスをめぐってメス同士が競争する。性淘汰の予測として、餌が豊富にある環境では雄は多くの精包を作れるので、メスの競争も弱くなるが、餌が少ない環境では精包をめぐるメスの競争は激しくなると考えられる。Gwynne とSimons (1990)は、野外環境をケージで仕切って餌環境をコントロールすることで、上の予想が正しいことを証明した。

  • Endlerのグッピー、オスの色彩とメスの好み

グッピーPoecilia reticulata は野外では捕食者のいる川といない川によって大きく形質が異なる。捕食者のいる川では早産早熟になり、色彩が地味である。こうした河川間での形質の差異が自然淘汰によって起きたことを証明する進化実験を行った。底砂の粒度と捕食者の有無で条件の異なる池を用意し、数世代から数十世代飼育した。捕食者であるシクリッドCrenicichla alta に晒された池では、そうでない池よりスポット模様が少なかった。また底砂の粒度が荒い方が、一つずつのスポットは大きくなった。

また同時に、体色はメスの好みの指標にもなっている。グッピーのスポット模様はカロテノイド色素によるが、餌に含まれるカロテノイドをコントロールした実験から Kodric-Brown (1985) は、グッピーのメスが主にオスの明るいカロテノイド色素を好んでいることを示した。


Physalaemus pustulosus / brian.gratwicke
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  • Tungara frogの求愛の鳴き声

カエルの仲間の Physalaemus pustulosus も他のカエル同様に、メスを惹きつけるためにオスが鳴き声で求愛する。メスは大抵オスよりずっと体が大きいので、体の大きな雄と交尾した方が卵の受精率が高くなる。Ryan ら(1990) は、メスを円形の入れ物の中央に入れて両サイドからオスの鳴き声をスピーカーで流すと、メスは体の大きいオスの鳴き声を好むことを示した。

メスを惹きつけるためにオスは鳴く一方で、メスを独り占めできる状態にある単独のオスが鳴くことはない。これは、鳴き声を出すことに対して別の淘汰圧が働いているからだ。捕食者に見つかる危険性がその原因だろう、カエルを捕食する狩猟性のコウモリが鳴き声に惹かれて反応することも、Ryanらの研究で分かっている。


Red-winged blackbird / dbaron
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  • ハゴロモガラスの翼の赤い肩章

ハゴロモガラス Agelaius phoeniceus の翼の赤い肩章を塗り潰したり、面積を広げてみる。赤い模様を黒く塗りつぶすと、縄張りに入ってくる侵入者が増える。雄同士が競争する際に、赤い模様が大きい方が有利になることが分かった。

  • widowbird の長い尾羽

著者のAndersson 自身が行った実験。尾羽を切って短くして、別の個体に貼りつけて長さを変えてやると、長くした個体は通常の個体以上にメスから好まれた。ハゴロモガラスの場合とは逆に、widowbirdの長い尾羽は雄同士の競争には影響しない。

  • ゾウアザラシのハーレムと性的サイズ二型

ゾウアザラシの仲間は、雌雄で三倍近い性的サイズ二型が見られる。これは海岸で繁殖するために集まるメスをオスがハーレムを形成して独占する繁殖システムの結果だと考えられる。Le Bouef と Reiter (1988)は、8匹のオスが348匹のメスを妊娠させたことを報告している。横軸に年齢、縦軸に繁殖成功の平均値をプロットすると、メスは2歳以降の毎年コンスタントに繁殖するのに対し、オスは8~12歳の間だけ急激な山形を描く。

大きな体が有利なのは、オス同士の競争で勝利するだけでなく、ハーレムを維持する体力にも必要だからで、海岸で繁殖する90日ほどの間に順位の高いオスは体重の40%近くを失ってしまう。順位の低いオスでは相対的に少ない34%しか失わない。

  • アカシカの二次性徴

Clutton-Brockら(1982, 1988)による16年間にわたる、スコットランドでのアカシカ Cervus elephaus の野外調査の結果が紹介される。雌雄では次の繁殖までの期間、繁殖成功、子供の生存率が異なる。メスは主に餌資源の量によって繁殖成功が決まるが、オスはメスをめぐる競争に勝ち、ハーレムを維持することが繁殖成功を高める上での制約となっている。雄同士の競争は激しく、しばしば致命的な負傷をおうこともある。スコットランドのRhum では、繁殖期には23%のオスが負傷し、6%は回復不能な傷害を受ける。ヨーロッパの別のアカシカの集団では、繁殖期の最もポピュラーな死因が、競争による負傷だ。

 

第6章では、性淘汰に関する研究のメタ的な解析と文献リストが紹介される。リストの内容に興味がある方は、Google Books で部分的に検索できるので、そっちをご覧下さい。この本が書かれた1994年の段階で、232の研究186種が対象となっている。

 

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原題:Life’s Solution | Inevitable Human in a Lonley Universe
邦題:進化の運命 孤独な宇宙の必然としての人間
著者:Simon Conway Morris
訳者:遠藤一佳、更科功
出版:講談社

 

制約が必然的に収斂を導く

Stephen Jay Gould はカンブリア紀のバージェス動物に関する著書、ワンダフルライフの中で生物の進化の歴史は偶然性により大きく左右され、もう一度やり直してみれば、そこで展開される歴史は今とまったく異なるものになり、人間のような生物が再び進化する可能性などほとんどありえない、と主張した。Morris はワンダフルライフ内にも登場したバージェス頁岩を研究した古生物学者だが、本書ではGould の主張に真っ向から反論する。人間的な知性の進化は、ほとんど必然的に生じるのだと。

Morris は、適応的な機能を獲得する際に異なる系統の生物でマクロレベルだけでなく、ミクロレベルでも収斂が生じることを指摘する。90年代以降、分子生物学の発展で収斂現象の中には単なる外見上の類似に留まらず、分子レベルでの収斂現象が存在することが分かってきた。本書で紹介された例を挙げると、脊椎動物や頭足類(イカやタコ)に見られるレンズ眼は独立に獲得された器官だが、レンズを形成する透明なタンパク質にクリスタリンというタンパク質がどちらの系統でも使われる。この分子自体は細菌にも見られる普遍的なものだ。
生物の構造は分子レベルの基本的なブロックを積み上げたり、組み合わせることで形成されるが、複雑な機能を実現するのに必要な構造と、使える分子の選択肢には制限があるため、収斂がもたらされるのだと考えられる。

石を使ってダチョウの卵殻を割るエジプトハゲワシ

 
Egyptian Vulture / Maurice Koop
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生物界に収斂は普遍的に見られることを、Morris は実例を持って示していく。文献と註だけでもおおよそ200ページあると言えば、どれだけ執念を込めて実証例を集めたか分かっていただけるのではないだろうか?

その中には胎生や恒温性、記号の操作や自己の認知といった抽象化能力、道具の使用や農業、社会生活といった、人類に固有とみなされがちな機能さえ、様々な動物で独立に進化して収斂したことが示される。これらの事実をもって、歴史を繰り返したり、異なる惑星上の生物であっても我々とコミュニケーション可能な知性を持った生物が必然的に出現すると予想する。

 

知性による人間の定義の妥当性

知性の進化に関するMorris の主張は、自分としては至極なっとくできた。
要するに、ヒトそっくりの社会性と知性は収斂で進化するから、それを持ってるものは進化生物学的には「人間」扱いしましょうという話だ、イルカやクジラを名誉人類扱いしたがるのも当然のことだ。しかし、進化を専門に学んだわけでない一般の人に納得してもらうのは難しそうだと思った。

一つめの壁は「種」の壁。
ヒト(=Homo sapiens)に属さないと人間じゃねえ、っていう種差別主義ってわりと根深そう。生物学的には種分類自体に本質的なものなんてないから、無意味なんだけど、それで納得しない人もまだ多そう。

二つめの壁は「共感」の壁。
露骨な言い方をすると、文化や感情を共有できないやつは人間じゃねえってこと。

人間の定義として、知性があるかどうかを Morris は重視してるが、一般の人にとって、それは必ずしも重要な要素ではないと思う。感覚や感情や価値といったソフト面での整合性をヒトの多くは重視しているように見える。戦時中の特攻隊員と現代のウォール街のビジネスマンが、お互いを同じグループに属するとみなすだろうか? もっと単純な話をすると、コペポーダの交尾シーンを見て性的欲求を覚えたり、萌えるだろうか? 萌えないよね、つまりそういう事。

ヒトが持つ感覚や感性はヒトに特異なものだろうか?

Morris は音波の反響で世界を認識するコウモリの世界を人間が理解できるのか? という疑問への答えとして、受容する感覚器官の収斂が色覚やモノの見え方といった感覚様式の収斂につながると主張している。
本書では、神経系や脳の構造の類似性について軽く触れただけだが、昆虫の記憶や学習の分子メカニズムについて研究した例が、「昆虫-驚異の微小脳」という本で詳しく紹介されている。これらの知見の蓄積によって、神経系での情報処理に関する分子的メカニズムにも収斂が見られるのか否か、いずれ明らかになるだろう。

 

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Andersson のSexual selection 第4章

ここまでは性淘汰の理論的な背景が説明されていた。ここからは実証研究で、性淘汰が働いているか調べるためにはどのような方法を用いるべきかが語られる。

 


Poecilia reticulata (Guppy) / Tokkes
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・観察と実験
Bischoff(1985)らによるグッピーの実験が紹介される。

グッピーのオスは長いヒレを持つ方がメスに好まれるが、実際にはヒレの長さと求愛行動の両方がメスの好みに影響を与えている。この実験では、異なる温度の容器にそれぞれオスを入れて、求愛行動の頻度をコントロールしてやることで、ヒレの長さと求愛のメスに与える影響を区別して検証した。

 

・種間比較
DNA分析による系統推定と統計モデルの発展によって、種間比較は仮説検定の強力なツールとなった。種間比較で用いられるのは質的形質と量的形質があるが、質的形質の研究例として、交尾前の配偶者防衛が挙げられる。

Rideley(1983) は、 昆虫や両生類など20近くの系統で独立して交尾前の配偶者防衛が進化したことを報告している。性淘汰の戦略として、配偶者防衛が進化することは理論的にも予測されており、独立した系統で同様の行動が進化したことはそれを裏付ける。

また、量的形質の例として、 Harcourt(1981)らが研究した霊長類の体重と睾丸サイズの関係が挙げられる。横軸を体重、縦軸を睾丸サイズに取ってプロットし、回帰直線を引くと、単独のオスがハーレムを形成する種では睾丸のサイズは回帰直線より下側に位置していた。これは、体の大きさのわりに小さな睾丸しか持たないことを意味する。反対に、複数のオスが繁殖グループを形成する種では回帰直線の上側に、つまり相対的に大きな睾丸を持っていた。

これは、複数のオスがメスをめぐる方が強い精子競争にさらされた結果だと考えられる。

・性淘汰の測定
最後にガラパゴス諸島のダーウィンフィンチ、Geozpiza fortisという種における性淘汰の実例が紹介される。旱魃時の死亡率の性差によって、オス:メスが3:1にまで偏ることが性淘汰の主因である。オスの繁殖成功を決める要因は、テリトリーの広さとクチバシの太さ、羽毛の色と広いテリトリーを持っているかどうかによっている。

羽毛の色は、若鳥ではメスと同じ茶色に近い色だが年を経るごとに黒色が増す。
より黒い色のオスほど、繁殖成功しやすい。

 

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原題:The 10000 YEAR EXPLOSION
         – How Civilization Accelerated Human Evolution –
邦題:一万年の進化爆発 文明が進化を加速した
著者:Gregory Cochran, Henry Harpending
訳者:古川奈々子
出版:日経BP社

人類に対する自然選択と文明化

この本の主張を三行で要約すると、

『人類の「生物学的な」進化は、大昔に止まった!
現代に生きる、ありとあらゆる地域の人種や民族は遺伝的にほとんど同質』

なんて文化人類学にありがちな主張は間違い!

生物学者には、そこはかとなく思ってる人も多いだろうけど、それ言ったらあまりにKYだから声を大きく主張してないだけなのに。下手な物言いすると、人種差別主義者扱いされるしね。けれど、人間の進化と歴史にも自然選択が大きな影響を与えた、という考えはダーウィンの「人間の由来と性選択」にまでさかのぼる進化生物学の大きなテーマだ。

ジャレド・ダイヤモンドは「銃・病原菌・鉄」で、南北アメリカでの白人の侵略の成功が病原菌耐性に拠ると主張している。以前に紹介したグレゴリー・クラークの「10万年の世界経済史」は、産業革命以前においての西洋では経済格差が子供の数の格差と直結してるって議論も出てきた。

農耕生活にヒトが最適化されてる + 地域・人種ごとでその度合いは異なる

っていうこの本の基本路線は妥当だと思う。

 

今の社会はヒトの多様性を受け入れる準備があるのか?

自分はこの本が先触れだと思った。

本書が解答を与えてはくれない多くの疑問の一つが、
「今の社会はヒトの多様性を受け入れる準備があるのか?」ということ。

たぶん、ノー

法律は、どの人間も平等で均質であることを条件に作られている。
保険や医療、教育もまだそう。社会倫理も同様、身長の高さや顔の美醜を「努力でどうにかなるもの」と考える人はあまりいない。では、「知能」も同じだと言われたら?

本書で印象的な話が、犬の品種による学習能力の違い。

平均的なボーダーコリーは、5回の反復で新しい命令を学び、95%の確率で正しく反応することができるのに対し、バセットハウンドは、80~100回繰り返し学習させても、正しい反応が得られるのは25%程度である。

ここまで極端じゃないにしても、学習で個人差があることを前提に置くか置かないかという、たったそれだけのことでも、今の社会のあり方は大きく影響を受けるはず。

この本が呈示しようとした世界観は、人権思想の発明以来の人類観に対する革命だと思うけど、生物学を学んでない人に、まだまだそれを「肌感覚」で伝えられる現状にはない。でも、それはたぶん遠い未来というわけでもない。

 

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